エネルギーインフラ整備で月面活動を本格化へ
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、月面での持続的活動を実現するための原子炉建設を加速させる。2025年7月に出された内部文書では、2029年末までに原子炉を稼働させる目標が示され、必要な設計と民間提案の選定に向けて具体的な指示が出された。
出力引き上げとスケジュール前倒しを明記
これまでの計画では、2030年代初頭に出力40キロワットの原子炉を設置する構想が進められていたが、今回の文書では最低100キロワット以上の出力が必要とされており、能力面と日程の両面で前倒しとなる。NASAはこの要件に応じた開発計画を民間から募っている。
中ロの動きに警戒感、先行確保に意欲
原子炉計画の急展開には、中国とロシアの月面開発構想が強く影響している。両国は複数回にわたり2030年代の原子炉建設を発表しており、アメリカ側ではこのままでは宇宙空間の主導権を失うとの危機感が広がっている。NASA幹部は、先に原子炉を建てることが「決定的な差になる」と警告している。
国際探査の拠点「アルテミス計画」に影響も
NASAが進める国際的な月探査拠点構想「アルテミス計画」にとって、原子炉は電力供給の中核的役割を担う装置である。このタイミングでの加速指示は、同計画における米国の戦略的優位性を保つ意図があるとみられている。
実行性への懸念、予算削減の行方が鍵
ただし、トランプ政権はNASAに対して予算の見直しを進めており、宇宙開発予算の大幅削減案が浮上している。これにより、原子炉建設のスケジュールや仕様に変更や遅延が生じる可能性がある。今後の議会や政府の判断が計画の実行力を左右することになる。