建設計画を前倒しで実施したことが明らかに
世界最大の半導体受託生産企業 TSMC が、日本国内での事業拡張を加速させている。熊本県菊陽町における第2工場の建設がすでに始まっていることが、16日に開かれた同社の決算発表会で明らかになった。当初予定されていた年内着工を前倒しして実施した形であり、具体的な稼働開始時期は今後の市場動向に応じて判断される見通しだ。
AI関連チップの需要拡大が業績を押し上げる
TSMCが発表した2025年7〜9月期の業績は、AI市場の拡大を背景に大幅な増収増益となった。売上高は9,899億台湾ドル(前年同期比+30.3%)、純利益は4,523億台湾ドル(+39.1%)と、四半期として過去最高を更新した。特に生成AI向けの半導体需要が引き続き旺盛で、世界的なサーバー投資の増加が業績を支えた。
熊本第1工場の量産体制と地域支援の効果
TSMCは2024年12月に熊本第1工場で量産を開始しており、生産は安定的に推移していると説明した。経営陣は「国と自治体の支援が大きな後押しとなった」と述べ、地域との協力関係を強調した。第1工場は主に自動車用や産業用半導体を供給しており、国内製造網の強化にもつながっている。今回の第2工場は、その延長線上で高性能分野への対応力を高める狙いがある。
日本国内での供給網再構築が進展
熊本におけるTSMCの連続投資は、日本政府が掲げる「半導体産業再生戦略」に沿った動きでもある。国の補助金支援を受け、地元企業との協業が拡大する中で、同社の拠点はアジア地域の供給網安定化に重要な役割を果たすことが期待されている。AI需要の高まりが続く限り、日本国内での製造能力確保は国際競争力の強化にもつながる。
世界市場での競争優位性を維持する布石
TSMCは今後もAI分野を中心とした需要に対応するため、生産能力の増強を進める方針を示している。熊本第2工場の稼働は、地政学的なリスク分散と供給安定化の両面から戦略的意義を持つ。台湾企業による国内製造拠点の拡充は、日本経済にとっても産業構造転換の象徴となるだろう。