ステランティス、水素車から撤退しEV戦略を強化

浅川 涼花
经过
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技術方針を転換しEVとHV分野に経営資源を集中

欧州自動車大手のステランティスは、7月16日に燃料電池技術の開発計画を中止する決定を下した。同社は、年内に予定していた水素商用車の市場投入も断念する。代わって、今後は電気自動車(EV)およびハイブリッド車(HV)の開発に注力する方針を明らかにした。

水素燃料電池車(FCV)は航続距離の長さや充填時間の短さなどの利点を持つ一方で、販売台数やインフラの整備状況から採算確保が困難とされてきた。ステランティスは、将来的な成長性を見込めない分野にこれ以上投資を続けることは適切でないと判断した。

水素市場の規模とインフラ整備の遅れが要因

ステランティスが撤退を決めた背景には、水素関連市場の小規模さと成長性の不透明さがある。水素ステーションの整備が各国で遅れ、実用段階に至っていないことが需要拡大を妨げている。

同社は「中期的に見て、水素技術は経済的に持続可能とは言いがたい」として、事業継続が困難と判断した。このため、水素関連の研究や量産体制の構築は中止され、投入されていたリソースはEVやHVの領域に再配分されることになる。

水素技術からの撤退も雇用には影響なし

今回の方針転換について、ステランティスは生産拠点の雇用維持を保証している。これにより、水素開発部門に従事していた技術者や労働者は、他のプロジェクトに配置転換されるとみられる。

これまで同社は欧州内で水素商用車のパイロット展開を進めていたが、その大半は公的支援や限定的なフリート向けにとどまっていた。今回の撤退は経営資源の集中を意図したもので、将来の利益創出につながる分野へのシフトと位置付けられる。

他社は引き続き燃料電池技術を推進

一方で、燃料電池車市場からの完全な撤退を選んでいない自動車メーカーも存在する。トヨタは2014年に世界初のFCV「ミライ」を発売し、ホンダも同分野において技術開発を続けている。

しかし、両社ともインフラ整備の課題に直面しており、水素を動力とする商用車や乗用車の大規模展開には至っていない。今回のステランティスの判断は、業界内での水素技術に対する期待と現実のギャップを浮き彫りにしたかたちだ。

中長期戦略としての電動化に軸足を移行

この発表は、ステランティスが自社の電動化方針を見直し、再定義し始めていることを意味する。世界的にEVやHVの需要が増すなか、経営資源の再集中と製品構成の見直しは必然となっている。

さらに、EUを含む各国で排出ガスに関する規制が厳格化しており、2035年には内燃エンジン車の新車販売が終了する見通しだ。水素技術に依存せずとも脱炭素を進められる技術基盤が構築されつつあり、今回の決定はその流れと歩調を合わせるものとなっている。

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