芸備線の存廃議論、赤字9945円区間の影響拡大

嶋田 拓磨
经过
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芸備線で採算最悪、地方鉄道の象徴に

JR西日本が発表した地方路線の収支データで、芸備線の東城―備後落合間が最も厳しい経営状況にあることが明らかになった。
この区間では100円の収入を得るために約9,945円の費用がかかり、事実上、鉄道運営が成立しない構造が露呈した。芸備線を含む19路線32区間の年間赤字は267億円を超え、地方鉄道の持続可能性が問われている。

赤字の背景に人口減と維持費上昇

赤字の主因は、地方部の急速な人口減少と高騰する維持費だ。設備老朽化への対応や人件費増が経営を圧迫し、収益の改善を阻んでいる。
JR西のデータでは、対象区間の平均収支率は13.1%にとどまり、運輸収入だけでは運営コストをほぼ賄えない状態が続く。特に中国山地や紀伊半島など、代替交通手段が限られる地域ほど赤字額が大きくなっている。

広島・岡山両県が維持を要望

芸備線をめぐっては、国主導の「再構築協議会」でJR西と広島県、岡山県が協議を進めている。広島県側は「黒字路線の利益で地方線を支えるべきだ」として存続を求める姿勢を示しており、地元自治体の間では観光や地域交通の視点からも維持を求める声が強い。
一方、JR西は「大量輸送機能を発揮できない鉄道を維持するのは難しい」として慎重な姿勢を崩していない。

実証運行と地域イベントで需要創出

芸備線では、臨時列車の運行や沿線イベントを組み合わせた実証事業が進行中だ。2024年7月に始まり、地域経済への波及効果を測定する試みとして注目されている。当初の11月終了予定は2026年3月まで延長され、観光促進や二次交通整備との連携が模索されている。
実証結果は1年半後に公表される見通しで、その内容が芸備線の存続可否を左右する可能性がある。

他路線にも波及する赤字構造

今回の調査では、山陰線出雲市―益田間(赤字32億円)や紀勢線新宮―白浜間(31億円)など主要地方幹線でも巨額の赤字が判明した。芸備線の問題は特定路線にとどまらず、地方鉄道全体の構造的課題を象徴している。
国や自治体の支援策が焦点となる中、地域と鉄道事業者の協調による新たな公共交通モデルが求められている。

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