海底通信網強化へ民間と政府が一体で体制整備進む

小野寺 佳乃
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敷設船公開で示された国内事業者の能力

NTTワールドエンジニアリングマリンは12月11日、横浜市に寄港した敷設船「SUBARU」の内部を公開し、海底ケーブル敷設の実務を説明した。海底ケーブルは世界の通信を支える基幹インフラで、日本の国際通信もほぼ全量が依存している。船内では敷設と埋設を同時に実施できる機器や、浅海域での保守に対応するロボットなどが紹介され、作業工程の複雑さが示された。公開は重要インフラの現場を可視化する取り組みとして関心を集めた。

現場での敷設技術と保守の実態

SUBARUは全長124メートル、総トン数9557トンで、長距離ケーブルを搭載しながら時速4〜7キロで海底に敷設する能力を持つ。これまでに国内外で5万1000キロ超を敷設してきた実績があり、ルート調査や修理案件にも対応する。浅い海域では投錨や漁業活動の影響を避けるため、鋤式装置などを使ってケーブルを海底下に埋め込む必要がある。作業は昼夜を問わず継続され、船の位置を保持するDPSなど高度な装置が欠かせない。

新造船計画が求められる理由

SUBARUは1999年建造で老朽化が進み、同社は今後10年を見据えて同等規模の新造船を検討している。世界的にケーブル需要は逼迫し、供給体制の確保が課題となっている。AI普及やクラウド需要の増大により通信量が拡大し、海底ケーブルの役割は一段と大きくなっている。国内企業が敷設船を自社保有することは、安定的な敷設能力の確保につながり、経済安保上でも重要性が増している。

政府が前面に出る海底インフラ政策

日本政府は従来消極的だった海底ケーブル支援に方向転換し、敷設船購入を含む官民連携体制を構築し始めた。令和7年度補正予算案には防護策強化のための調査費3億円を計上し、国内事業者が世界市場で競争力を維持できるよう支援を打ち出した。海外ではケーブル企業の国有化や軍事部門との連携が進む国もあり、各国が国家レベルで供給網の維持に取り組んでいる。

国際市場で激しくなる競争環境

海底ケーブル市場では欧米大手が9割のシェアを占め、中国勢も追随している。GAFAMによる自前敷設も広がり、案件は大型化する傾向にある。NTTグループはこうした市場環境で受注拡大を狙い、メタやグーグルなどからの案件獲得を進める構えだ。国内外での需要増を背景に、敷設能力と保守体制の強化は継続的な課題となる。今回の公開は、海底通信網を支える技術と体制の重要性を改めて示すものとなった。

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