AI活用で過去最高更新となった所得税追徴の実態

滝本 梨帆
经过
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追徴税額増加が示す調査の深化状況

国税庁は2024年事務年度における所得税の追徴税額が 1431億円 に達したと公表した。前年より増加し、統計方式が現行形になった2009年度以降で最高額を更新したことになります。追徴が増えた背景には、申告内容を分析し、リスクの高い納税者を抽出する過程で人工知能(AI)を本格的に導入した点が挙げられています。同庁は調査対象の選定精度が高まり、限られた人員でも深度のある調査が可能になったと説明しています。これにより従来よりも効率的な調査体制が整い、結果として追徴の金額が押し上げられた形となっています。

AI導入による調査手法の整備状況

AIの活用は2023年度から本格化し、納税者の申告履歴や過去の調査記録など膨大なデータを基に、申告漏れが生じる可能性を判定する仕組みが導入されています。この技術は調査対象の優先順位を明確にする役割を担い、職員が現場で判断する際の指標として使われています。AIによる選定精度の向上により、調査の無駄が減少し、調査件数の減少にもかかわらず追徴税額は増加しました。実地調査は 4万6896件 と前年度よりわずかに減少したにもかかわらず、調査の効率が向上したことが数字に表れています。

富裕層への重点調査が示した結果

今回の公表では、富裕層と定義される高額資産保有者への調査結果も注目されました。富裕層の申告漏れに相当する所得は前年より 27.8% 増の 837億円 に達し、追徴税額も 207億円 に増加しています。国税庁は有価証券の大量保有、不動産の大規模所有、継続的な高所得などの条件を基準に、重点的な調査対象を抽出しています。資産形成が複雑化し、取引量も増加する傾向がある層に対する調査は、AI導入で選別が効率化されたことで精度が高まったとみられています。これにより、調査全体の追徴額に占める富裕層の比重も増加しました。

無申告事案の増加と具体的事例の状況

無申告者への追徴額は 252億円 と過去最高を記録しました。特に副業や個人取引による所得申告の不備が目立ち、転売収入を届け出なかった事案や、トレーディングカード販売による収益を申告していなかったケースが報告されています。名古屋国税局ではゲーム機の転売で得た収入を申告していなかった個人に対して、重加算税を含む約 2900万円 の課税処分が行われています。また大阪国税局では、取引ごとに請求金額を通知するメールが確認され、所得が発生していながら申告が行われなかった疑いが強まり、最終的に 3300万円 の追徴につながった事例が明らかにされています。

調査件数の推移が示す行政運営の方向性

所得税の調査全体では、実地調査と電話・面接などの簡易な接触を合わせて 73万6336件 が実施されています。実地調査が減少する一方で、AIの活用により調査効率が高まり、必要な案件に重点的にリソースを投じる体制が形成されています。国税庁はデジタル技術を取り入れた調査手法の拡充を継続するとしており、今後もリスクベースの調査が中心になる見通しです。今回の追徴額の動向は、税務行政の高度化と業務の最適化が進んでいることを示しており、今後の納税環境にも影響を与えると考えられます。

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