生体認証機能を拡充した新方式の運用開始が示す動き
日立製作所と東武鉄道は、生体認証基盤「SAKULaLa」に顔認証を組み込み、東武宇都宮線の東武宇都宮駅から栃木駅までの12駅で通勤定期券利用者向けに運用を始めた。これまで指静脈を中心に対応してきた仕組みに新方式を加え、改札設備としての扱い方を広げる取り組みとなる。対象者は事前に交通系ICカード番号と顔画像を登録し、設置された端末へ顔を向けるだけで通行できるよう整備された。駅現場での業務を効率化する狙いも反映される制度として位置づけられている。
定期券情報を登録した利用者が顔認証で通行可能となる状況
利用者は専用サイトや登録端末を通じ、通勤定期券情報と紐づけた顔画像を事前に登録しておく必要がある。運用区間となる12駅にはタブレット型の認証端末が配置され、通過時に画面へ顔を向けるだけで処理が完了する。実際の動作手順は読み取り作業に依存しないため、ICカードを改札に近づける必要がない。現段階で利用対象となる交通系ICカードは「PASMO」に限られる体制だが、利便性を確保する方向性が示されている。
新型改札機の導入によって設備構成が変化する見通し
日立製作所と東武鉄道は、2026年春からカメラを内蔵した新型改札機の配備を進める計画を明らかにしている。現在はタブレット端末を用いた読み取り方式だが、今後の設備更新に伴い、駅構内での認証動作が一体化される構成へ移行する見通しとなる。顔認証を専用端末に依存しない仕組みにすることで、各駅の処理環境に統一感を持たせる狙いもある。課題となっていた専用装置の設置環境の制約を踏まえ、運用方式の幅を確保する取り組みが並行して進められている。
指静脈認証と併用する形で生体認証の用途が広がる背景
SAKULaLaは指静脈認証を核として導入が進められてきたが、顔認証を加えることで利用者層を増やす目的が示される形となった。指静脈方式では専用の読み取り機器が必要であったため、設置場所や導入範囲に制約があった。新しく加わった顔認証方式はカメラ機能を基盤とするため、対応可能な場所の幅が広く、駅設備に限らず店舗や宿泊施設などでの利用拡張も視野に入る。鉄道会社側は運賃決済を含む多様な用途への応用を検討する姿勢を示している。
運用拡大に向けて他社との連携や事務負担軽減が焦点となる
交通機関では、認証技術の導入によって業務処理の効率化やICカード関連費用の低減が期待されている。JR東日本も新潟県内の一部区間で、新幹線定期券を対象とした実証実験を進めており、同様の仕組みを活用した決済方式の検討が進む状況がある。東武鉄道と日立製作所は、他社でも利用できる共通的な仕組みの開発に取り組む方針を示しており、今後の適用範囲拡大が課題となる見込みだ。こうした動きが運用環境の見直しにつながり、駅設備の将来的な構成に影響を与える可能性が指摘される。