AIで再現された声の権利保護問う津田健次郎さん訴訟の行方

河本 尚真
经过

AI音声利用を巡る初の司法判断へ

生成AIで声を再現した動画の公開を巡り、声優の津田健次郎さんがTikTok運営会社に対して動画削除を求めた訴訟が進んでいる。津田さん側は、自身の声質を無断で模したナレーションが投稿され、権利を侵害されたと主張している。生成AIと声の保護を巡る争いとして、裁判所の判断が注目される。

訴えの対象となったのは、特定アカウントに投稿された雑学や都市伝説などの動画である。投稿数は188本とされ、いずれも津田さんの声に似た低音のナレーションが付けられていたとされる。津田さん側は、動画が本人の声の持つ知名度や印象を利用して閲覧者を集めたと訴えている。

著名声優の声が動画誘引に使われた経緯

津田さん側は2024年6月、投稿者を特定するため、TikTok運営会社に発信者情報の開示を求める手続きを始めた。東京地裁は権利侵害を認め、運営会社に接続記録の開示を命じた。しかし、開示された記録をもとにプロバイダーへ照会した時点で保存期間が過ぎており、投稿者の特定には至らなかった。

その後、津田さん側は2025年11月に動画削除を求める訴えを起こした。訴状では、動画が再生回数に応じて収益化され、月50万〜75万円の金銭を得ていたとされる。声の類似性だけでなく、経済的利益を得る仕組みの中で声が使われた点も、裁判の重要な要素になっている。

被告側は普遍的な男性声と反論

原告側は、投稿動画のコメント欄に寄せられた「ツダケンの声がする」といった反応を根拠の一つとしている。視聴者が津田さんの声を想起したことは、混同や類似性を示す材料になるとの立場である。音響分析でも、本人の声と動画音声の間に高い類似性があると主張している。

これに対し、被告側は、ナレーションは津田さん固有の声ではなく、一般的な男性の声にすぎないと反論している。話し方にも独自性はないとし、投稿者が別のサイトで「友人の声だ」と説明していた点も挙げている。声の特徴をどのように比較し、法的に保護される範囲をどこまで認めるかが争点となる。

声優業界に広がる無断生成への警戒

声の無断生成を巡る懸念は、声優業界にも広がっている。声優の福山潤さんは、自身が演じたアニメキャラクターに無断で歌わせる動画を見たことがあると明かした。本人の関与なしに声が利用される状況について、制御できない恐ろしさを感じたと述べている。

福山さんら声優有志は2024年から「NO MORE 無断生成AI」運動を展開している。無断生成が広がれば、若手声優の活動機会が失われるおそれがあると訴えている。さらに、個人の声がなりすましや犯罪に利用される危険も指摘し、社会全体で考える必要があるとしている。

法的整備と社会的議論が課題に

今回の訴訟では、不正競争防止法とパブリシティー権の適用が問われている。不正競争防止法では、広く認識された商品表示などと同一または類似のものを使い、混同を生じさせる行為が問題となる。経済産業省は、特定人物の声を出せるAIで本人の持ち歌ではない曲を歌わせて公開するような場合、同法で対応できるとの見解を示している。

法務省は2026年4月、生成AIによる声の無断利用をめぐる民事責任を検討するため、有識者による会議を設置した。今夏にも、どのような事例が権利侵害に該当するのかを示す指針をまとめる予定である。今回の裁判と政府側の整理は、AI時代の音声利用に関する基準づくりに影響を与える。

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